発端は9日のフランスからでした。日本時間に沿って流れを説明するのがわかりやすいかもしれませんね。9日(木曜日)、日本株は4日続伸。日経平均株価は月曜日の16,914円46銭から木曜日まで4日続伸し、9日(木曜日)の市場は前日比141円32銭高い(+0.83%)17,170円60銭で引けました。その後夕方から夜にかけてアジア市場が次々に閉まっていき、ヨーロッパを迎えます。
フランス最大の銀行、BNPパリバが3本のファンドの凍結(申込・解約の停止)を発表。いずれのファンドも資産担保証券(ABS)に投資するファンドです。凍結の理由は、「ファンドの資産を公正に評価することができなくなった」ため。で、それらのファンドの資産、つまりファンドの中身、投資先、であるABSを公平に評価することができなくなったということです。ABSというのは基本的には債券なのですが、何らかの資産を担保にしているというのがミソです。普通の債券というのは担保ついてないですよね。国債やトヨタの社債に国が持ってるビルやトヨタの自動車が担保になってて、国やトヨタがお金を返せなくなったら代わりに担保のビルや車をもらえる、ってことはないですよね。ABS(資産担保証券)というのは、車を買うのでローンを借りる、と言っても信用力がなくてなかなか貸してもらえない、そこで購入する車を担保にして、信用力を増してお金を借りる、というのと一緒です。本来の目的は、その担保になる資産がもってる価値を、その資産の持ち主が現金化したい、ってだけなんですが要はそういうことです。ABS市場が非常に発展しているアメリカでは、住宅ローンだけでなく、クレジットカード債権や、リース債権、商業用不動産担保ローン、などさまざまなものを担保にしたABSが発行されています。そしてここで問題になっているABSの担保になっている資産はというと、アメリカのサブプライムローンです。ローンと言っても貸してる側から見た話ですので、あくまで借金ではなく資産です。これを担保にして発行しているABS、つまりこのサブプライムローンを回収する権利という資産を担保に借りている借金の証書、それが今回問題になってるABSです。こんな感じの仕組みです。下の図を見てください。

アメリカのサブプライムローンは、普通の住宅ローンを借りるのが難しいような信用力の低い個人に高金利で貸す、住宅ローンです。この住宅ローンは、借りた後しばらくは実は金利が低くて、収入の少ない人でも払っていけるような金利です。そして数年後、急に金利が上がります。これまでもこうしたローンはあったのですが、ここ数年間、上昇し続けるアメリカの住宅市場を背景に、こうしたローンの利用者は借りた後の数年間のうちに購入した住宅の価値が上がり、つまり担保の価値が上がって信用力が増し、金利が上昇する前に通常の金利のローンに乗り換えることができました。ところがここへきて、アメリカの住宅の右肩上がりの価格上昇が頭打ちになり、購入後も住宅価格が上がらず通常の金利のローンに乗り換えることができない人たちがサブプライムローンの金利の上昇を迎え、高金利が襲い掛かり、たちまち返済不能や金利延滞に陥る人が続出し、サブプライムローンはどんどん焦げ付いていき、不良債権化がすすみます。すると、このローン債権を担保にしたABSの価値も下落します。
このABSに投資しているヘッジファンドや金融機関が今年に入ってかなりの金額の損失を被り始め、今年6月にはアメリカの大手証券ベア・スターンズのファンドが破綻、その後もファンドの破綻やクローズが続いていました。日本でもあおぞら銀行が200億円以上を投資しており、今年第1四半期に45億円近い評価減を実施、うち7,000万円を損金計上していました。これが最近話題になっているアメリカのサブプライムローン問題です。
日本時間9日木曜日夜、パリの9日昼間に戻りましょう。BNPパリバのファンド3本の凍結が発表されました。もちろん3本のファンドの資産が吹っ飛んでしまったわけではありません。あくまでも「ファンドの資産を公正に評価することができなくなった」ため、との説明です。最上級格付けのAAA格に40%を投資し、資産のほとんどの部分を投資適格債券(BBB以上、債券の格付についてはこちらhttp://jovivi.seesaa.net/article/12335922.html)で運用してて、無格付債券の組入れは5%以下、なんてファンドも含まれていたそうです。つまり、このファンドは今回の件で吹っ飛んでしまうとか、そういうような状態ではなかったわけです。公正に評価できないというのは、一義的には組入れている資産の一部の値段がちゃんと出ないもんで、ファンドの基準価額がうまいこと出せません、って意味です。ただまぁ実際には、知り得る直近の値段で評価すればいいわけですし、今売ろうとすると最後についていた価格よりずっと安くなってしまうかもしれないわけで、そんな状態で以前の価格は使えないって理屈もあるのかもしれませんが、叩き売ろうと思えば買い手はいるはずです。ただ、買い手は非常に少なく、買ってくれるとしてもたぶんとんでもない値段で売ることになるはずで、そうなればファンドのパフォーマンスは大きく下がります。それでも、投資家がパニックを起こしてファンドに大量の解約が来た場合、ファンドの中の資産をなんでもかんでも叩き売らなくてはならなくなります。こうしたことを考えての措置でしょうし、凍結はファンドの投資家を守るための措置なのでしょう。
しかし、少なくともただでさえサブプライムローンの問題とこの問題が与える世界の金融市場への影響に、神経過敏になっていた市場には衝撃的なニュースでした。また、それに追い討ちをかけることになったのが、ECB(欧州中央銀行)の発表でした。9日、ECBは、金融市場の不安を沈静化するため緊急の資金供給を表明しました。その金額はなんと948億ユーロ(15兆3,000億円)、2001年の米国同時多発テロ後の9月12日の693億ユーロの資金供給を抜いて過去最大規模となる金額を市場に供給し、無期限の資金供給を発表しました。市場はサブプライム問題でかなり神経過敏になっており、投資家たちは高リスク資産から資金を引き揚げ始め、銀行間で資金を融通し合うインターバンク市場でも、不安心理から参加者達は手元資金を厚めに確保し始め、資金の出し手が少なくなり、短期金利は急上昇しました。Libor(ライボ)という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、LiborというのはLondon Inter-Bank Offered Rateの略で、こうした銀行間の資金の融通し合いの際の金利で、短期金利市場を表す代表的な数字です。
ECB(欧州中央銀行)による過去最大規模の資金供給は、市場に大量の資金を供給することで、市中に出回るお金の量を増やし、急激に上昇する短期金利を抑え、金融不安の発生を防ぐための措置です。しかし、効果は完全に逆でした。さほど深刻ではないと市場参加者たちの多くが考えている状況下で過去最大規模の資金供給が行われたことで、市場参加者たちは「ECB(欧州中央銀行)はもっと深刻で重大な情報を掴んでいる」と推測しました。
短期金利はこうした状況で急上昇する一方、「質への逃避(ハイリスク・ハイリターンのリスク資産からローリスク・ローリターンの安全資産へ資金を移すこと)」が起こり、債券が買われ、債券価格は急上昇、利回りは急低下しました。債券の保有者がもらえるクーポン収入は変わらないのに、債券の購入価格が上がれば利回りは下がりますよね(債券の基本はこちらhttp://jovivi.seesaa.net/article/12389773.html)。債券の利回りは長期金利を決めます。債券価格の上昇、利回りの低下、により、長期金利は低下します。短期間の借金の金利より長期間借りる借金の金利のほうが低い状態になります(逆イールドと言います。短いほうが金利が低い状態が順イールド)。
結局、この日9日(日本時間9日夜)、フランスの株式市場の代表指数のCAC40指数は前日比-2.17%の大幅下落、イギリスの株式市場の代表指数FTSE100指数も前日比-1.92%の下落となりました。
そして、舞台はヨーロッパからアメリカへ。FRB(米国連邦準備制度)の公開市場操作担当のニューヨーク連銀は240億ドル(2兆8,400億円)の資金を供給。市場はヨーロッパの混乱をそのまま引き継いだ形で株式市場は大幅下落、代表指数のダウ平均は前日比-2.83%の大幅下落となりました。一方で、質への逃避が最も顕著に出る米国債市場では債券価格か急上昇、利回りは急速に下がりました。また、短期金利は、手元資金確保の動きの広がりから急上昇しました。
この間、金利の安い日本円を借りて、高金利通貨やリスク資産で運用する「円キャリー取引」を行っていた投資家たちは取引を解消に走ります。リスク高い運用ですからね。運用していた円以外の通貨を売り、借りていた円を返すため、円を買いに走ります。結果、日本円は全ての主要通貨に対して値を上げ、前面的な円高となりました。ユーロから資金をシフトする動き、も重なり、ユーロは対円で大幅に下落してユーロ安が進みました。一方で米ドルは、質への逃避で米ドル・米国債を買う動き、と、サブプライムローン問題による嫌気が重なり、荒い展開になりました。ただ、こちらも対円では、円キャリー取引の解消と思惑、加えてアメリカのサブプライムローン問題から円を買う動きのほうが強く、円ドル相場は円高が進みました。
そしてアメリカの9日の市場が終わり、日本は10日朝を迎えます。日銀は欧米の中央銀行に足並みを揃える形で1兆円の資金供給を発表。日本でも債券を買う動きが大きく出て、債券価格は急上昇、利回りは大きく下落しました。株式市場にも混乱が広がり、円高の急伸に伴う輸出関連企業の業績悪化への懸念なども重なり、結局、日経平均は406円51銭安い(前日比-2.37%下落)16,764円09銭で今週の取引を終えました。
そして、日本に続くアジア各国の株式市場もほぼ全面安で10日の取引を終え、舞台は今回の世界同時株安の震源となったヨーロッパへと再び移ります。ECB(欧州中央銀行)はこの日も2日連続となる大規模な資金供給を発表、供給額は2日間で25兆円という規模に達しました。しかし、ヨーロッパの株式市場も先に10日の取引を終えたアジアの株式市場の大幅下落の流れを止めるには至らず、前日に引き続きヨーロッパの株式市場は大幅に値を下げました。そして、最後にアメリカ。FRBは前日に引き続き、ニューヨーク連銀を通じ、2日連続となる資金供給を今度は「必要に応じてアメリカの金融市場に流動性を供給する」との緊急声明付きで発表。市場には割安感から物色も見られ、小幅安となりましたが、アメリカの今週の株式市場も下げたままでの終了となりました。
8月10日の各国の株式市場の前日比の下落率はこんなかんじです。
ちなみに中国の上海総合指数は小幅安、今週の終値は先週末より高いです(笑) やっぱり外部と寸断されてるんだなぁということをこういうときに改めて感じさせられます。
いやーーー、ホントにすごかった。来週はどうなるんでしょうね。最後に1つだけ言っておきますと、こういうこと言っては不謹慎なのかもしれませんが、こういう機会はあんまりないので大切にしたほうがいいです。こういう時にアンテナが立っていて、こういう期間を市場にアンテナを立てた状態で経験するということは物凄く貴重なことですし、投資家としてのレベルの上がる大変良い機会になります。私も、社会人3年目の時、やや調子に乗り始めた時いや乗りまくってた時に、米国の同時多発テロ、ITバブルの崩壊後の日本株の下落、エンロンの破綻、マイカルの破綻、MMFの史上初の元本割れ、アルゼンチン政府のデフォルト、という凄まじいことが立て続けに起きた2001年を経験したことが大きな礎となっています。当時は本当に大変でしたが、あの経験がなかったら今の私はないと確信しています。みなさんもせっかくの機会ですから、投資信託を通じて投資をしている市場参加者の1人として、アンテナを立てて世の中の動きを見ていてほしいなと思います。今回の経験が皆さんにとって貴重な財産となりますように。
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