2016年07月28日

投資信託は分配金を支払えないようにすべきだ

別のところに掲載するために執筆したものですが、諸般の事情によりこちらに掲載します。いつもと文体が違うのは別のところに掲載するために執筆したものだからです。長文を読むのがかったるいという方、制度については正確に理解しているという方、のために3つのポイントで簡単にまとめるとこういうことです。

◆投資信託の分配金は解約と全く同じ。だが、預金利息や債券のクーポンのようなものと誤解している人が多い。投信協会の調査では、分配金が解約と同じだということを理解できている人は全体の3割しかいない。
◆分配金を支払えないようにすることで、経済的な損失を受けるのは、税金をとっている人たちだけ。
◆投資信託は分配金を支払えないようにすべきだ。理解するのが難しい制度の誤解を利用して納税させるというのはフェアではない。

詳しくは以下。詳しく正確に書くとどうしても長文になってしまうのでご容赦ください。



まずは、投資信託にあまり馴染みのない方、あるいは誤解している方、のために簡単に投資信託の仕組みと投資信託の分配金についてご説明しよう。

【投資信託の仕組みと基準価額、純資産総額、口数】

投資信託は箱のような概念の金融商品で、多くの人のお金を箱(ファンド)の中に入れ、各ファンドに定められたルールに基づいてファンドの中のお金を運用する。例えば、日本の株式に投資するファンド、新興国の債券に投資するファンド、といった具合にどこの国のどんな資産にどのように投資するのか、手数料は何%なのか、誰が運用するのか、等が細かく規定されている。

ほとんどの投資信託はいつでも好きな時に売ったり買ったりすることができる。つまり、各ファンドには毎日様々な人のお金が入り、出て行く。そのため、ファンドの中に組入れられている資産は毎日全て時価評価されてファンド内にいくら分の資産があるか(純資産総額)が明らかにされ、それを全口数で割った「基準価額」という1口当たりの純資産額が公表される。ファンドにお金を入れる人は1口当たり、基準価額分のお金を払って任意の口数を手に入れ、ファンドからお金を取り出す人は1口当たり、基準価額分のお金をもらって任意の口数を換金する。なお、1口当たりの基準価額を小数点以下4桁まで表示するため、通常は1万口当たりの基準価額で表示される。

例えばAさんとBさんが1万円ずつファンドにお金を入れて純資産総額2万円、総口数2万口、1口当たりの純資産総額(基準価額)が1円(1万口当たり1万円)のファンドを作り、ファンド内のお金で2万円分の株式を買ったとしよう。翌日、投資した株式の値段が50%値上がりして3万円になったとする。すると純資産総額は3万円となり、口数は変わらずの2万口のため、基準価額は1万口当たり1万円から1万5千円に上がる。もしここでBさんが保有する1万口を換金したい場合、基準価額分の1万5千円を取り出し、純資産総額1万5千円、総口数1万口、1万口当たりの基準価額1万5千円のファンドになり、保有し続けるAさんと、換金するBさんの間に不公平はない。次に、Cさんが新たに3万口を買いに来たとする。Cさんが3万口を、1万口当たりの基準価額1万5千円で4万5千円を払って買えば、純資産総額6万円で、総口数 4万口、基準価額は1万5千円となる。Aさんは1万円で買ったものが1万5千円になっているので50%儲かっているし、Cさんは1万5千円で買ったものが1万5千円のままで±0で損も得もない。このように、基準価額で売ったり買ったりすることで公平が保たれるようにしている。

基準価額は通常、設定日を1万口当たり1万円としてスタートする。日経平均株価が13,000円の時点で、基準価額が4千円のファンドも、1万円のファンドも、2万円のファンドも、130万円のファンドも割高・割安の違いはない。この4本のファンドの中では4千円のファンドが最も多くの口数が買えるので、4千円のファンドが最も割安と勘違いしている人が多いがこれもよくあるとんでもない誤解だ。4本のファンドがすべて日経平均株価に連動するインデックスファンドだと考えてみればいい。コストを無視すれば、4本のファンドはそれぞれ日経平均株価が32,500円の時、13,000円の時、6,500円の時、100円の時(1950年)に設定されたファンドということだ。すべてのファンドを1万円ずつ買い、日経平均が10%上昇すれば、すべてのファンドがそれぞれ1,000円ずつ儲かり、日経平均が10%下落すればすべてのファンドがそれぞれ1,000円ずつ損をする。違いはない。基準価額が安いファンドのほうが割安だとか買いやすいと言っている人は基準価額がどういうものなのかを正確に理解できていないということだ。嘘だと思うのであれば投信協会でも金融庁にでも聞いてみるといい。

以上が投資信託の基本的な仕組みだ。



【投資信託の分配金】

投資信託の分配金というのは、純資産の一部を外に払い出す仕組みであり、言い換えれば基準価額の一部を払い出すものだ。口数は変わらず純資産総額と基準価額が減る。たとえば、基準価額が1万口あたり1万円のファンドが1万口あたり500円の分配金を払い出せば、基準価額は9,500円となり、保有している投資信託の口数は変わらず9,500円になった投資信託と分配金で出た500円の合計10,000円となり、500円分解約したのと全く同じ状態になる。もしこのとき2千円の分配金を払い出せば基準価額は8千円となり、8千円の投資信託と2千円の現金の合計1万円となる。1万円の定期預金を500円解約すれば9,500円の預金と500円の現金となり、2千円解約すれば8千円の預金と2千円の現金になるのと同じだ。

一方、1万円の預金に利息が100円ついて10,100円になったときに500円解約すれば、500円の現金と9,600円の預金になる。当然ながら利益は100円であり、500円が利益ではない。投資信託の組入れ資産の時価が上がり、1万円だった基準価額が10,100円になった時に500円の分配金を出せば、500円の現金と9,600円の投資信託になる。この時も利益は100円であり、500円が利益ではない。が、多くの人は分配金の額の500円が利益だと勘違いをしている。分配金の額の500円は解約額であり、利益額ではない。投資信託の分配金は一部解約と全く同じなのだ。自動(強制)一部解約と言ってもいい。しかし、多くの人は投資信託の分配金が、どこか別のポケットから支払われると勘違いをしている。預金利息や債券のクーポンのように元本とは別にどこかから支払われると誤解している。基準価額1万円のファンドが500円の分配金を支払うと、1万円とは全く別に500円の分配金がどこかから支払われると考え、結果9,500円になった基準価額は時価が下がった、つまり値下がりしたことによるものだと勘違いをしているのだ。200円の分配金が支払われるよりも500円の分配金が支払われるほうが儲かる、と考えている。200円解約するよりも500円解約するほうが儲かるだろうか。そんなわけはない。が、分配金がたくさん支払われるファンドに資金が集まり、皆こぞってたくさんの分配金が支払われるファンドを買う。持っているファンドの分配金額が引き上げられると喜び、分配金額が引き下げられると悲しみ、怒る。



【分配金を誤解しているのは高齢者だけではない】

こうした勘違いは高齢者に多い、とされる風潮があるが実はそうではない。

投資信託協会が発表している「投資信託に関するアンケート調査報告書-2015年(平成27年) 」の中に【分配金の仕組みについての理解と認知】という項目があり、分配金の仕組みを正しく理解できている人の割合を調査した結果がある。それによれば、「(分配金が)支払われた額だけ、基準価額が下がる」ということを理解している人の割合は全体でわずか31.6%、年代別には70代以上では29.5%、60代は31.3%、50代は37.0%、40代は28.6%、30代以下は32.9% 、で正しく理解している人の割合は1/3以下だった。分配金の仕組みを正しく理解できている人の割合が3割程度しかいないのは70代以上の高齢者だけでなく、40代、30代以下でも同様なのである。

勘違いをしているのは投資家だけではない。分配金をたくさん払うファンドを批判する記事はあちこちで目にするが、それらの執筆者の中にも分配金の仕組みを勘違いしている人は多く存在する。例えば分配金額を基準価額で割って「分配率」や「分配利回り」を計算し、分配金が多過ぎる、分配率が高過ぎるという批判がある。あるいは、その分配率が組み入れ債券の利回りと比較して高過ぎる、過去1年のリターンと比べて高過ぎる、「分配源資」と比べて多過ぎる、といった批判もある。これらの批判はそもそもポイントがずれている。分配金のことを正しく理解できていない状態での批判だ。

分配金は一部解約と全く同じなのだから、分配金が多過ぎるのはよくない、というのは解約し過ぎるのはよくない、というのと同じだ。分配率は解約する金額の投資額全体に対する比率と同義で、解約する金額はどのくらいが適切でどのくらいが多過ぎるなどという定義はできるはずもない。組み入れ債券の利回りが5%だから1年間に解約してもいい金額は5%で、20%は解約し過ぎ、とは言えないのに、5%の債券に投資して5%分配しているファンドは健全で20%分配しているファンドは不健全だと言うのはおかしな話だ。そもそも前者はその他に為替で20%勝っていて、後者は為替で20%負けている、なんてこともあるかもしれないのに。

100万円投資した投資信託が1年間で120万円になって全額解約するのは100%の分配率で分配金を受け取るのと同じだ。ではその120万円のうちいくら解約するのが健全なのか。20万円以上解約するのは健全ではないのか。過去1年間のリターンと分配率を比較して批判しているのはそういうことを言っているのと同じだ。

「分配源資」という言葉は正式な用語ではないが、この正式ではない用語のほうが広まってしまっているのでこの言葉で説明するが、「分配源資」は多くしようと思えば多くできるし、基準価額より大きな金額になってしまうことがあるという変な数字だ。なぜそんなことが起きるかと言えば、細かい説明は省くが、値上がり分は増額され、値下がり分は減額されないためにこうしたおかしなことが起こる。実際に基準価額より「分配源資」のほうが多いファンドは普通にある。「分配源資」が6千円で基準価額が2千円のファンドは6千円の分配金を支払えるか。支払えるわけがない。そんな数字が一体何の頼りになるというのだ。そんな数字を使って分配金額の妥当性を論じることに何の意味があるのだ。

こうした批判は、自分たちも分配金の仕組みを正しく理解できていないという自覚のない人達によって、金融や経済を専門とするメディアでも堂々と繰り広げられている。そうした人達に悪意がないならば、やはり投資信託が支払う分配金の仕組みが、それだけ誤解されやすく、正しく理解するのが難しいものなのだろう。だから、分配金支払いの制度自体、キッパリとやめてしまえばいいのだ。投資家にとっても経済的なメリットのない制度なのだから。むしろ誤解による弊害のほうがずっと大きい。投資信託は分配金を支払えないようにするべきだ。



【分配金を支払えないようにすべきだ】

投資信託が分配金を支払えないようにする場合、まず、投資家にとっては当然ながら経済的な損失はない。分配金は自動(強制)一部解約と同じ。自動(強制)解約制度がなくなっても、投資信託はいつでも好きだけあるいは全部を解約できるのだから任意に解約する道が残されている。そもそも分配金を支払わないタイプのファンドは任意解約によって分配金を受け取るのと同じ状態にできている。分配金のことを誤解してしまっている投資家からは反対されるかもしれないが、実質的なあるいは経済的な損害のある話ではない。むしろこれ以上さらに誤解してしまう人を増やさないことが重要だ。誤解を解くのはとても難しいのだから。高い分配金を支払うためのこじつけの理屈を用意するために、高リスクの資産に投資し高分配を支払う商品が次々に現れ、それを販売会社から投資初心者が勧められたり、勧められまくった結果そうした高リスク高分配ファンドが売れ筋ファンドに押し上げられて、売れ筋ファンドを買いたい人/みんなが買っているものがいいファンドだと考える人が買ってしまい、本来の自分のリスク許容度や知識レベルを超えて大きなリスクをとってしまう、という問題が解消されるだけでも大きなメリットがある。

投資信託を設定/運用する運用会社や投資信託を販売する販売会社は歓迎するだろう。分配金に対する誤解が多いことは分かりきっているし、分配金を支払えばそれだけ投資信託の預かり残高が減る。自分たちだけ分配を出さない、自分たちだけ分配金の出ないファンドを販売する、ならば他社比の売り上げに大きく影響するが、みんな一斉に、ならば文句なしだろう。金融庁も投資信託協会も、分配金に対する誤解を減らそうと運用会社や販売会社に様々な説明の工夫を求めているが、限界を感じているであろうし、もちろん歓迎するだろう。



【経済的な損失があるのは税金をとっている人達だけ】

恐らく障害となる可能性があるのは唯一つ、それは投資信託が分配金を支払うことで恩恵を受けている人達、税金をとっている人達による反対だ。金融庁が「投資信託の分配金を支払えないようにしたい」と言ったところで、税金をとっている人達からすれば、はいそうですかと受け入れられるような話ではない。なぜなら投資信託が分配金を支払うかどうかは、税金をとるうえで非常に重要な要素だからだ。

例えば、1950年に日経平均株価に連動するインデックスファンドが設定されていたとする。当時の日経平均株価は約100円なので、配当を考慮せずに価格変化のみだけを考えても現在までに約165倍になっている。当時、基準価額1万円でスタートしていれば今の基準価額は165万円、100万円投資していれば1億6千5百万円になっているということだ。すると、1億6千万円以上の利益が出ているわけだから約20%の税金で3千万円以上の税金がとられることになる。が、投資信託の利益にかかる税金は、「利益が実現した時」に徴収される。利益の実現とは、利益が出ている状態で解約・売却をしたり、分配金を受け取ることだ。

本当に長期投資を行い、1950年から65年以上にわたって途中売却をせずに保有し続けてきた投資家は、途中で全く税金を払うことなく運用し続けてこれたということだ。売却をすれば3千万円以上の税金をとられてしまうが、売却さえしなければずっと税金を支払わずに済む。が、もしここで165万円の基準価額から100万円の分配金が支払われるとどうなるか。その時点て1億円の利益が実現したことになり、約2千万円の税金をとられてしまう。投資信託には本来、税金の支払いを先延ばしにできるという素晴らしいメリットがある。しかし皆がそのメリットを活かし、分配金を受け取らず、解約もしない、という状態になれば税金を取る人たちは税金をとれなくなってしまう。ところが、7割もの投資家が誤解している分配金の制度をそのままにしておけば、多くの投資家は分配金が支払われるタイプのファンドを買い、毎月毎月、分配金という名の自動(強制)一部解約によって強制的に利益が実現し、税金を源泉徴収によってかき集めることができるのだ。もちろん、損をしている状態で分配金を受け取っても、損をしている状態での解約と同じなので、この場合はそもそも税金をとることができないので彼らにとってはどうでいい話だ。



【誤解を利用して納税させるのはフェアではない】

このように、投資信託が分配金を支払うかどうかは、税金をとる側にとっては大変重大な問題なのだ。投資信託が頻繁に分配金を支払えば、小まめに利益を実現して小まめに納税をしてもらえることになる。税金をとる側からすれば、投資家が自ら解約しない限り利益が実現せずに税金をとれなくなってしまう、投資信託の分配金支払い禁止、には断固反対だろう。しかし、投資信託という非常に優れた特徴を持つ金融商品の活用を広めるためにも、投資家の裾野を広げるためにも、投資信託は分配金を支払えないようにすべきだ。そもそも、徴税の方法として、理解するのが難しい制度の誤解を利用して納税させるというのはフェアではない。

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posted by ジョン太郎 at 17:04| Comment(2) | TrackBack(0) | ジョン太郎のマメ知識 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
いつも楽しく拝見させていただいております。
ジョン太郎さん著作「お金と投資の本当の話」の内容が無断で引用されているようでしたのでこちらでお知らせしておきます。

(リンクだけカットさせて頂きました。ジョン太郎)
Posted by とおりすがり at 2016年08月08日 23:01
とおりすがりさん、
ご親切にありがとうございました。
よくお気づきになられましたね。凄い!って思いました。重ねてお礼申し上げます。



>とおりすがりさん
>
>いつも楽しく拝見させていただいております。
>ジョン太郎さん著作「お金と投資の本当の話」の内容が無断で引用されているようでしたのでこちらでお知らせしておきます。
>
>
>
Posted by ジョン太郎 at 2016年08月08日 23:19
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