2015年07月26日

値段が高くなるほど買いたい人が増えるものってなーんだ

まるで子供のなぞなぞですが、今日は値段が高くなって割高になればなるほど買いたい人が増えてしまう不思議なものについてのお話。


前回の記事でこの記事
http://jovivi.seesaa.net/article/399443270.html
のリンクを貼ったところ、その記事中に書いた「価格が上昇するほど需要が増えてしまう」の意味がもう1つよく分からないという質問メールを頂きました。

金融商品は「ギッフェン財」(価格が上昇すると普通のものは需用が減るが、ギッフェン財は価格が上昇すると需用が増えてしまう不思議なもの)の典型例です。本源的な価値が上がることで価格が上がるのではなく、次々に流入する資金によって割高になることで価格が上がる、その割高化による価格上昇(株式なら利益が増えるのではなくPERが上昇することによる価格上昇)は本来ならば需要を減らすはずですが、金融商品の場合は逆に需要が増えてしまうという不思議な現象が起きるのです。

そんな馬鹿な話があるかと思う方もいるかもしれませんが、金融市場では当たり前のように繰り返されている話なんです。多くの人は気付かないまま、価格上昇に一役かってしまうわけですが・・・

よくあるケースでこんなことがあります。AとBの2つの銘柄の株式があったとして、それぞれがこんな状態であったとします。

A:利益100円、PER10倍、株価1,000円、年間利益成長率1%
B:利益100円、PER10倍、株価1,000円、年間利益成長率10%

AとBの違いは利益成長率の違いだけです。この2銘柄が1年後にこんな感じになっていたとします。

A:利益101円、PER15倍、株価1,515円、年間利益成長率1%
B:利益110円、PER10倍、株価1,100円、年間利益成長率10%

皆さんだったらこの時点で、この2銘柄のうち、どちらに投資したいですか?Aは利益成長率がわずかに1%で、最初の状態から1年経っても利益は100から101に増えただけですが、人気が集まったのかPERが15倍に上昇し、株価は1,515円まで上がり、この1年の株価上昇率は50%以上です。一方、Bは利益成長率が10%と高く、利益は100から110にまで増えていますが、人気がなかったのかPERは10倍のまま、株価は1,100までしか上がらず、株価上昇率は10%にとどまっています。

多くの人はBのほうが良い銘柄だと考え、AよりもBのほうに投資したいと考えます。10%しか上がっていないBに対し、同じ期間にAは50%以上値上がりしているからです。「良い銘柄だから上がっているのだ、良い会社の株式だから上がっているのだ、ほら、実際にこんなに上がっている」などと言われます。

過去の短い期間のチャートを見て語られている話の多くはこの類のものです。そして、Aの銘柄は更に人気を集め、更にPERが上がり、更に株価が上がっていくのです。割高になったものの需要が増える構図はこの通りです。割高感に対する懸念も、単なる資金流入による価格かさ上げだという指摘も、「価格の上昇が全てを正当化」し、虚しくかき消されます。「良いものだから上がっているのだ。間違いない。」「実際にこれだけ上がっているのだから。」「みんな良いと言っている、あちこちで良いという声を聞く、テレビでもやっていた。」と。だからこそ上がっているのですし、そうやって「割高かどうかも考えない人たちが「良いらしい」というふんわりしたアプローチで買っているからそのおかげで上がっているのですが・・・

ところが、その4年後、スタート時点から5年後、こんなことが起きるというのはとても良くある話です。投資家心理を冷やすようなネガティブなイベントがあり、両銘柄のPERは8倍に低下します。2銘柄はこんな感じになりました。

A:利益105円、PER8倍、株価840円、年間利益成長率1%
B:利益161円、PER8倍、株価1,288円、年間利益成長率10%

利益が大して伸びていないAの株価はスタート時点の株価よりも下がってしまっています。しかし、Bは当初の1,000円よりも株価が上昇しています。PERの低下よりも利益成長のほうが大きかったからです。そりゃそうです。どちらもPER8倍に落ちましたが、本源的な価値はBのほうはちゃんと大きく上がっていて(利益100円⇒161円に成長)、Aのほうはほとんど上がっていなくて(利益100円⇒105円)「割高化」によって上がっていただけなので、その分が剥離してしまえばこうなります。

更に5年後、スタート時点から10年後、再び株式市場は活況を迎え、Aの銘柄のPERは再び15倍に、Bの銘柄は相変わらず人気がなく10倍に戻っただけですが、それでも先ほどの8倍から10倍に上がりました。2銘柄はこんな感じになりました。

A:利益110円、PER15倍、株価1,650円、年間利益成長率1%
B:利益259円、PER10倍、株価2,590円、年間利益成長率10%

Bの銘柄のPERはスタート時点と変わりませんが、人気が集まりPERの上昇したAの銘柄の株価上昇率を大きく上回っています。それでも多くの人はスタートから1年後の時点ではBよりも割高になって大きく上がっているAを選ぶのです。「人気だから上がっている」のに、「人気があって」【しかも】「上がってる」【実際に】「上がっている」と解釈してしまうのです。「人気のものを買いたい」「売れ筋のものが良い」「みんなが買っているものを買いたい」「お隣さんと違うのは嫌」という気質が強いこの国では特によく見られる傾向です。割高になっているものに人気が集まり、割高なものほど買いたい人が増えてしまうというおかしな事態はこうして起こります。

投資というのは本来、こういう本源的な価値の成長を、時間をかけてためて、積み上げて、その力によってお金を増やそうとするものなのです。本源的な価値の成長、ここでは利益の成長は年に10%程度。資金が流れ込んで50%も割高化した上昇率には短期間では勝てません。こうした本源的な価値がたまるには短すぎる時間で、主にPERの変化による株価変動を使って、売ったり買ったりを繰り返してお金を増やそうとすることを、「投資」と区別して「投機」と呼びます。「投機」をするつもりならば全く問題ないですが、「投資」をするつもりなのに割高になっている銘柄を選ぶ、売れ筋のもの・人気のものを買う、というのは自分の考えと全く合っていないものを買うことに陥りかねません。

株式だけでなく、債券でも同様です。債券の場合は、インカムゲインまで含めて考えることができる投資信託の基準価額で考えるのが分かりやすいと思います。スタート時点の条件を揃えたA、Bの2本の債券ファンドがあったとします。いずれも米ドル建ての債券に投資するファンドです。組入債券のリスクは同程度だとします。2銘柄はスタート時点はこんな感じです。

A:債券価格$100、利息$0、利回り5%、$1=100円、$100×100円=基準価額10,000円
B:債券価格$100、利息$0、利回り5%、$1=100円、$100×100円=基準価額10,000円

1年後にこんな感じになっていたとします。あなたならどちらのファドに投資したいですか?

A:債券価格$100、利息$5、利回り5%、$1=100円、$105×100円=基準価額10,500円
B:債券価格$115、利息$5、利回り2%、$1=100円、$120×100円=基準価額12,000円

これでA、Bがそれぞれ基準価額の上昇分を分配金で支払い、A:分配金500円/基準価額10,000円、B:分配金2,000円/基準価額10,000円、となればもう99.9%、Bのファンドのほうが圧倒的に売れるでしょう。Aは1億円しか売れず、Bは3,000億円以上売れる、くらいの差がつくと思います。それが今の日本の投資信託市場です。

Aの組み入れ債券の価格は変わらず$100が$100のまま。債券利回りは引き続き5%です。1年分の利息が$5入り全部で現地通貨ベースで$105の資産を持ち、為替レートは変わらずの$1=100円の評価で基準価額は10,500円です。一方のBは、組み入れている債券に人気が集まり資金が流れ込んだのか、債券価格は$115まで値上がりし、利回りは2%に低下しています。1年分の利息$5が入り、債券で$115、利息で$5の合計$120の資産を持ち、為替レート$1=100円で円換算すると基準価額は12,000円となります。多くの個人投資家はここでAかBのどちらか一方に投資する場合、Bを選びます。資金が流れ込んで割高になって債券価格が上がっただけなのに、5%しか上がっていないAに対し20%も上がっているBのほうが「いいものだ」と考えるのです。

ここから投資する場合の利回りはAが5%、Bが2%とかなり大きな差があり、Bの債券は1年前まで$100だったものが$115にまで値上がりしてかなり割高になっているのにも関わらず、です。もちろん私はAを買います。多くの人は、上がっている理由が資金流入によって割高になっているため、ということに気づかず、上がっているものがいいものだ、いいものだから上がっているのだ、と考えてしまうのです。安易な騰落率のランキングなどを掲載しているマネー雑誌や投資情報誌はそれを助長しています。彼らにはそんな意識すらないのでしょうけど。

ここ数年のハイイールド債、バンクローン、ハイブリッド証券(劣後債や優先証券)などはいずれもこの典型でした。どんどん資金が流入して、どんどん割高になり、どんどん利回りが下がっていく。にも関わらず、「上がっていること」が全てを正当化してしまっていたのです。リスクに見合わない利回りでそれらのリスクをとってしまった人の末路はあまり幸せな結末とはならないでしょう。だからこそ2014年6月以降、FRBのイエレン議長はハイイールド債やバンクローンに対して警鐘を鳴らし、IMFなどの機関もそれに呼応し警鐘を鳴らしていったのです。資金流入によって本来その資産のリスクから見れば到底考えられないくらい高い価格(低い利回り)まで値上がりしてしまったものを多くの人が買えば、資金が逆回転した時に大きな損失が発生します。その規模が大きかった場合、金融システム全体に影響を与えかねません。だからこその警鐘なのです。にも関わらず、「でも、値上がりしてるじゃん」と一蹴されてしまうのが残念なところ。

高いPERの株式、低い利回りの債券、でも人気のものなら買ってしまう人たちAと、成長性に見合ったPERの株式、リスクに見合った利回りの債券しか買わない人たちBの2種類が市場にはいます。ある資産はBの人たちしか買っていませんでした。突然Aの人たちがやってきて、どんどんお金を入れて、価格を押し上げ、上がった価格が更にAの人たちを呼び集めていきます。Bの人たちはもう参加しません。ある日、市場に冷水が浴びせられて一部の資金が逃げて価格が下がると、Aの人たちはそもそも本源的な価値など考えない人ですから、割高になっているものが割安化して価格が下がっているなんてことは考えずにパニック売りを始め、資金逃避が価格を下げ、下がった価格が更なる資金逃避を呼びます。良い値段になるまでBは買いません。Aの人たちしか買わないところまで上がった価格ではAの人たちが買わなければ誰も買わないのです。

お金が流れ込めば値段が上がるのは当たり前。割高になることで実現されるリターンは、短期的には本源的なリターン(株式であれば企業の利益成長の積み上がり、債券であれば利金収入の積み上がり)を凌ぐことも多々あります。もちろん、資金が逆流すればそこで終わり。それまでの光景とは真逆の悲惨な事態が待ち受けています。資金流入によって価格がかさ上げされたものを「人気があって、みんなが買っている良いもの」と考える人たちが「値段が上がれば上がるほど買いたい人が増える」という不思議な世界を創りだしてしまうのです。

「みんなが割高かどうかも考えずに買ってるから、割高になりながら上がってるんでしょう。」
「みんなが買ってれば値段が上がるのは当たり前じゃない。その人達が買わなくなったら誰も買わなくなって値段は下がるんでしょう。」
「小さな市場にまとまったお金が流れ込んでいるから値段が上がっているんでしょう。ちょっとまとまったお金が入れば小さな市場が大きく上がるのは当たり前。」
私が自分の子どもに身につけていってほしいのはこういう感覚です。私は、こういう感覚を身につける、あるいはこういうことを理解できるような基礎知識を身につけることができるようにするのが、本当に必要な金融教育だと思います。こういうことを伝えずに、おこづかいのあげ方だけ考えていても、あるいはおこづかい帳をつけさせて「節約」だけを覚えさせても、本当に必要なお金の知識や感覚は身についていかないと思います。拙著の宣伝のためではなく本当に心からそう思います。学校での金融教育・投資教育に関わっている方には是非そうしたことを意識してみて頂きたいです。そして、何より大切なのが家庭での金融教育です。お子さんがいらっしゃる方で、人気があって値上がりしているものが良いものだ、とつい思ってしまうという方は、お子さんが将来コツコツ「節約」して貯めたお金を高値掴みした金融資産を損切りして吹き飛ばしてしまわないように、「節約」以外のことも教えていくべきではないでしょうか。今、家庭で教える以外に、そうしたことを学ぶチャンスはありません。ご自分の人生を振り返ってみてもそうではなかったですか?夏休みにお子さんとお金の話をしてみてはいかがでしょうか。お子さんとだけではないです。親御さんと、大切な人と、お金の話をたまにしてみるのはとても大切なことだと思います。

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posted by ジョン太郎 at 17:28| Comment(0) | TrackBack(0) | ジョン太郎のマメ知識 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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