2015年07月12日

流動性リスクをあなどるなかれ

今日はホットトピックになってきている「流動性」についてお話しさせて頂こうと思います。


「流動性」という言葉の意味はいくつかありますが、話題になっている「流動性」の意味は「売りたい時に売れない」「値段を大きく下げないと売れない」ことを「流動性が低い」と表現する意味で使われているものです。「雇用の流動性」とか「流動性の供給」「流動性の罠」「過剰流動性」といった言葉の中で使われる「流動性」の意味とは別の意味です。

先週、中国の本土株式市場では1000銘柄以上が売買停止になりました。これは他でもない「流動性リスク」の顕在化であり、一部の銘柄に「流動性」が全くなくなった、つまり売ろうにも売れなくなった、ということになります。ギリシャの証券取引所も取引がストップし、売りたくても売れなくなりました。中国のA株に投資する一部の投資信託では「買付・解約の停止」措置がとられました。ファンドを解約したいという人がきても、中身の株式を売って現金化して解約代金を渡すことができないのですから当然です。

売りたくても売れない状況は、人々をパニックに陥れ、不安を増大させます。こうした「売れなくなる」「換金できなくなる」流動性リスクというのは、普段はあまり意識されないものですが、ひとたび顕在化すると恐怖の牙をむいて投資家に襲いかかります。流動性リスクを決して軽視してはいけません。

ところで、この流動性リスクにはもう少し広い範囲のリスクが含まれます。市場規模の小さな市場や売買代金の少ない市場で、大きな金額の取引をするときに、買い手が少なすぎて大きな金額を売れない/売り手が少なすぎて大きな金額を買えない、買い手が少なすぎて自分の売りで値段を下げてしまう/売り手が少なすぎて自分の買いで値段を上げてしまう、というのも広義の流動性リスクに含まれます。

これをご理解いただくのは、株式市場の「板」をイメージするとわかりやすいと思います。株式市場には売買注文をまとめて載せる「板」というものがあり、各銘柄の板にはその銘柄を売買したい人の注文がまとめられています。各板に、当該銘柄を売りたいという人の注文を売りたい価格の高い順に上から書いていき、もっとも安い価格で売ってもいいという人たちの注文を下からいくつか表示します。一方、その銘柄を買いたいという人の注文を買いたい価格の高いほうから順に上から書いていき、最も高い価格で買ってもいいという人たちの注文を上からいくつか表示します。例を挙げるとこんな感じになります。

【売り】
単価150円 500株
単価140円 100株
単価130円 300株
【買い】
単価120円 600株
単価110円 200株
単価100円 400株

ここに表示されていなくても、もっと高い値段でなら売ってもいい人たちもいるかもしれませんが、その人たちの売ってもいいよという値段は160円とか200円とかあるいはもっと高い売却希望価格です。買う側は少しでも安く買いたいわけですから、最も安く売ってもいいという注文が載っていれば十分です。同じく買う側も、高い値段で買い取るという人の注文が載っていれば十分です。売る側は少しでも高い値段で売りたいわけですから。

上に例で挙げたような状態では売買は成立しません。一番安く売ってもいいという人でも希望価格は130円で、一番高く買ってもいいという人でも120円までしか出せなくて、この両者の間に乖離があるので取引が成立しないのです。ここに130円の買いが入ると、130円で300株売るという人と300株分まで取引が成立します。130円で50株の買いが入れば、50株を130円で売買する取引が成立し、残り250株分の130円での売りが残ります。もし、130円で500株の買いが入った場合には、130円で300株売るというのを全て買って300株分の単価130円での売買が成立し、更にあと200株を130円で買いたいという注文が残ることになります。130円の売り物がなくなり、一番安く売ってもいいという値段は140円となり、140円で100株売るというのが最安値、一方、一番高く買いたいという注文は、先ほど500株買いたいと言って130円で300株しか買えなかった残りの200株分が残り、単価130円 200株買いの注文が一番上になります。そして140円で100株売りと130円で200株買いの間の値段の開きで、新たな買い注文・売り注文が出てくるまでまた取引が成立しなくなります。

ここにたった1株の売り注文・買い注文を出しても、価格に大きなインパクトを与えることはありません。 これが流動性に問題のない売買です。しかし、もしここに7,000株の買い注文を出したらどうなるでしょう。自分の買いで価格は大きく上昇します。130円から150円の売り物を全部買っても900株しか買えません。これよりももっと上の売り物もどんどん買い上がっていかなければならず、つまり自分が買えば買うほど値段が上がっていってしまうことになります。 さらには売り物がなくなってしまって、7,000株の全てを買うことができなくなるかもしれません。

反対に、もしここに7,000株の売り注文を出したらどうなるでしょう。自分の売りで価格は大きく下落します。120円から100円の買いを全部とっても1,200株しか売れません。これよりももっと下の買いもどんどん売り下がっていかなければならず、つまり自分が売れば売るほど値段が下がっていってしまうことになります 。途中で買い注文がなくなってしまって、7,000株の全てを売ることができなくなるかもしれません。

このように大きすぎる買い注文や売り注文で売買ができなくなったり、自らの売買で価格を不利な方向に大きく動かしてしまうリスクも広義の流動性リスクです。リーマンショック以後の世界的な金融緩和により、溢れかえったマネーが、小さな市場に流れ込み、あちこちの市場でこの流動性リスクが高まってきています。流動性リスクの怖いところは「その日」が来るまではそのリスクの大きさも怖さもなかなか感じることができず、ある日突然顕在化するとそれまでの状況からは想像もできないほど酷い状況に一気に変わるという点です。

ハイイールド債市場はその典型で、昨年前半から既に様々なところでその流動性リスクが指摘されていたのですが、(幸いなことに)これまでのところ顕在化せずに済んでいます。昨年6月にFRBのイエレン議長がハイイールド債とバンクローンについて問題だと指摘して以来、ほぼ一貫して価格を下げてきていますが、これは流動性リスクが顕在化したというほどのことではありません。流動性リスクが顕在化すればこんなものでは済みません。リーマンショックの時にはまさにこの流動性リスクが顕在化し、ハイイールド債もバンクローンも一気に半値になったのですから。

マネートレイン*が停車しているうちはいいのです。マネートレインが停車しているうちは次々に流れ込む資金によって価格が支えられ、押し上げられます。問題はマネートレインが次の駅に向けて出発した時で、資金が逆流してひとたび流出し始めれば、市場規模や売買代金と比べて大き過ぎる売りによって価格が下げられ、下がったら価格に驚いた人が新たな売りをし、更に価格を下げて皿なる売りを呼ぶという循環に入ります。一旦この循環に入ると抜け出すのは容易ではありません。

*マネートレインについてはこちら。
http://jovivi.seesaa.net/article/218970323.html

今のハイイールド債市場は買っている投資家が極端に偏っています。個人投資家が投資信託を通じて購入というパターンが「買い」のかなりの部分を占め、機関投資家や割高な資産を買うことを避けるリテラシーの高い投資家はほとんど買っていません。『以前は23種類いたハイイールド債の投資家が今はたったの3種類の投資家だけが買っているという状況になってしまっている』というレポートもありました。こうした状況は、これらの投資家が売りにまわった時に一体誰が買うのか、というとてもシンプルで重い疑問を呈しています。

ハイイールド債市場以上に深刻な状況にあるのが米国REIT市場です。この記事
http://jovivi.seesaa.net/article/399443270.html
でも書きましたが、米国REIT市場というのはとても小さな市場で、1日の売買代金は10億ドル〜15億ドル程度しかありません。6千本ある日本の投資信託市場で最も大きなファンドは、不思議なことに米国REIT市場で運用するファンドです。どこをどうしたらこんなおかしな事象が起きるのか理解に苦しみますが、これが日本の投資信託市場の現実ということです。その日本最大のファンドは1兆3千億円以上の残高を誇ります。このファンド以外でも残高上位のファンドのかなりの割合のファンドが米国REIT市場に投資するタイプのファンドです。

こんな小さな市場で1兆3千億円をどうやって運用するというのでしょう。買うほうはまだなんとかなるかもしれません(相当苦しいでしょうが)。それでもファンドにお金が入ってくるたびに、小さな米国REIT市場に大量の買い注文を投げ、割高かどうかなんて悠長なことを言っているヒマなどなく、売り物という売り物を片っ端から買い漁っていかなくてはなりません。自分の買いで価格をどんどん押し上げていくことになります。他に買う人のほとんどいない独壇場のような値段での取引で買ったものを誰が買うのか、と思いながらも、買わないという選択肢をとるこはできません。

そして、こうした資金の流れが逆流し、ファンドに入ってくる資金より解約額の方が大きくなってしまったときはどうするのでしょう。『アメリカのREIT市場は世界最大のREIT市場であり、とても大きく・・・』なんてセリフも聞かれますが、それはとても小さな世界のREIT市場の中で最大、というだけの話です。その世界最大とやらの米国REIT市場の取引規模は東京証券取引所の20分の1、25分の1といったの規模しかありません。1兆3千億円の残高のたった1%分の純流出でも130億円もの大きな売りを、1日1,500億円かそこらしか売買のない市場に投げなくてはならないのです。数日に分けて売る、なんて暇はないでしょう。だって、解約代金の受渡日は解約申し込み受付日から数えて◯営業日後、と約束しているんですから。

自分たちの大きな売りで価格を下げることになるがしょうがない、どころか、本当に1日のうちに全て売り切ることができるのかすら疑問です。そして、大きく下げた基準価額を見て不安になった人たちが更なる解約に来た時、一体どうするのでしょう。1日にファンドの純資産残高の10%の解約が来てしまったらどうなるのでしょう。主要銘柄150銘柄くらいの合計で1,500億円しかない市場にどうやって1,300億円の売り注文を出すのでしょう。誰が買うのでしょう。不特定多数の人に、それこそ何十万人という人たちに販売しているのですから、一気にまとまって解約が来てしまうことだって充分あり得ます。

流動性リスクをあなどるなかれ。ご注意くださいませ。

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posted by ジョン太郎 at 16:31| Comment(0) | TrackBack(0) | ジョン太郎のマメ知識 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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