2011年09月03日

ブラジルの利下げについて。

ブラジル中央銀行は31日の金融政策委員会で政策金利を12.5%から0.5%引き下げ、12%とすることを決定しました。


ブラジルレアルは豪ドルと並んで日本人のお金が非常にたくさん向かっている通貨ですので、リーマン・ショック以来久しぶりのブラジルの利下げのニュースが出て、結構いろんな人から質問を受けました。今回のブラジル利下げについて私なりの考えを書いておきます。

いつもながらのお断りですが、私はこれでこうなりますよという未来を知っているわけでもありませんし、私が正しいとか私の話していることが正解だと言うつもりもありません。私のお話しする内容も、話半分3割引きで聞いていただくくらいでちょうどいいと思います。このブログを読んでくださっている皆さんに私のお話しする内容に賛同していただく必要は全くありませんし、皆さんを説得したり、同じ考えを持っていただこうというつもりもありません。このブログはあくまでも私はこう考えています、というのをお話しするだけのことです。なので、議論をするつもりもありません。この点を十分ご承知おきください。



さて、今のブラジルレアルを取り巻く環境とか、今のこの市場の構造については以前詳しくご説明したことがありますので、その時の記事をご覧になってないという方、もう一度おさらいしてから、という方はこちらのリンク先記事をご覧ください。

http://jovivi.seesaa.net/article/201078447.html



というわけで、現在のブラジルレアル市場は、ブラジルのインフレ率が非常に重要なカギを握っている、というのが私の考えの土台になっています。これを踏まえて、ここから先の話をしていきます。



今回の利下げ、「市場の予想に反して(利下げ)」と言われてみたり、「市場の予想通り(利下げ)」と言われてみたり、と真逆の解説が並立していると思いますが、結局「市場」はどっちを予想してたんだという話で、答えはたぶんちょっとややこしいです。市場で金利の取引をやっている人たちは「ブラジルが利下げをする」ことを織り込むレートでの取引をしていました。なので、この人たちの取引するレートが示唆する「利下げするだろう」という「予想」に対しては「予想通り」の利下げということになります。

市場で取引されているレート自体は年内に更にあと25bps〜50bpsくらいの利下げがあることを織り込むレートで取引されています。正しいか正しくないか、とか、彼らが年末の政策金利を知っているとか、そういうことではなくて、あくまでも金利の取引をしている人たちがそういうレートで取引している、そういうレートでの取引が成立している、というだけのことです。その市場に参加していない人たちの考えが反映されているわけではないので、その人たちはそう考えている、くらいに思っておけばいいと思います。

一方で、エコノミストとか、要するに金利の取引をしているわけではなく市場とか経済の分析をやっている人たちは、「今の状態で利下げなんてナンセンス」「むしろ利上げが必要」という声も多く、この人たちの声を「市場の予想」と言うか「市場関係者の予想」と言うかは別として、この人たちの考えに対しては「予想に反して」の利下げ、ということになります。

私の考えは後者で、この状況で利下げするというのはいかがなものかと思っています。



日本からの資金は、「通貨選択型のレアルコースの分配金が高いから」とか「ブラジル債券ファンドの分配金が高いから」というだけの理由でブラジルレアルのことなんて気にも留めず、マネーフローによって価格が押し上げられてるだけなのかどうかなんて関係なく、とにかく分配が高けりゃ何でもいいという資金です。そうやって通貨選択型のレアルコースやブラジル債券ファンドに投じられたお金は、そのファンドの運用をするファンドマネージャーが「そろそろレアルやばいだろ」とか「ぼったくられ過ぎだろ」とか「こんなの後に続く資金が来なくなったらかさ上げされてた値段がはがれ落ちて急落しちまうだろ」なんて思ってても、「レアルに投資します」とうたっている以上は問答無用でレアルを買うしかありません。レアルに何があろうがレアルを買い続けるという約束がされているファンドなんですから、急落するかどうかは関係ありません。



バブルとかマネートレインとか、資金流入によって価格が押し上げられてしまう仕組みとか、についてはこの記事に詳しく書いてあります。
http://jovivi.seesaa.net/article/218970323.html
通貨選択型ファンドの詳しい仕組みについてはこちら。
http://jovivi.seesaa.net/article/196079365.html
http://jovivi.seesaa.net/article/197297176.html
http://jovivi.seesaa.net/article/217564180.html



話を戻して、こういう高分配ファンドを通じてブラジルレアルを買っている資金、「思考しないお金」とでも言いましょうか、こうした「思考しないお金」は別として、それ以外のお金というのは、特に機関投資家やヘッジファンドなんかのお金は、今のレアルの構造をおそらくこんな感じで捉えてるんじゃないかなと思います。

【高インフレ率続きペース加速】
【政府はインフレ抑制をレアル高対策よりも優先】
【ファンダメンタルズは悪くない】
【引き続き高金利】
【リスクマネーのON/OFFが大きく影響する小さな市場】
【日本からの思考しないお金の買い支えがある】

このくらいの観点で捉えて考えているのではないでしょうか。
私はだいたいこの辺の項目でブラジルレアルを見ています。



で、繰り返しになりますが、ブラジル政府がレアル高対策を打ってくるかどうかを予想するにもインフレ率、今後のレアルの投資環境を考えるもインフレ率、とにかくインフレ率が重要だと思います。

今のレアルのレートというのは大前提として「ブラジル政府がインフレ率をコントロールできている」というのが土台になっていると思います。かつて年間数千パーセントものインフレを経験し、インフレに10年単位で苦しめられ続け、なかなか経済成長ができなかったブラジルがついにインフレを支配することに成功し、成長し始めた、というがこの数年のブラジル人気の土台だと思います。

この2〜3年のレアル相場についても、記事の冒頭のほうでリンクしたレアルの環境のほうでも書きましたように、政府が製造業とかの保護のためのレアル高対策よりもインフレ抑制を優先していて、レアル高対策を打つのはあくまでもインフレが落ち着いている時、ということが市場で認識されているから成り立っている相場なのだと思います(こないだの先物の規制は高インフレ率下で実施されましたが、あれはもっと早くやろうと思ってたのに、システム対応がなかなかできなくてやっとこのタイミングになって導入できただけ)。



逆に言えば、ブラジル政府がインフレ率をコントロールできていない、インフレ対応が後手にまわっている、と市場がみなせば、レアルは今の水準を保てなくなるんじゃないかなと思います。日本からの「思考しないお金」の買い支えは、今もありますし、そういう局面になってもあるのでしょうが、それ以外のお金の売りが激しくなれば、当然今の水準は保てなくなります。今は「思考しないお金の買い」とそれ以外のお金の売ったり買ったりがそこそこ拮抗していてもみ合いながらじりじり上がっていて、最近これが横ばいになってきています。ここから「思考しないお金」以外の売りがかさんでくればパワーバランスは崩れてしまいます。



というような感じで私は現在のレアルの構造を捉えています。で、レアルと、ブラジルのインフレ率と、政策金利、の推移を見てみましょう。いずれも過去5年です。



【以下、グラフはBloombergのHPより引用】

USDBRL.bmp

BRCPI.bmp

selicrate.bmp

【以上、グラフはBloombergのHPより引用】



最初のグラフはレアルの対ドルレート。対円で見ちゃうとドル円の影響が混じるので、レアルがどうか、が見えにくくなりますので対ドルで。グラフが下に行くほどレアル高。2008年秋のリーマンショックでドーンと下がったあとはどんどん上がってきて、ここに来てもみ合いになっています。

2番目のグラフがブラジルのインフレ率。これは物価の推移ではなく、前年比の物価上昇率の推移、ですので、そもそも値がプラスになっていればインフレは進んでいて前年よりも物価が高くなっていることを占め増します。1%の横ばいだとしても物価は上がっていることになり、このグラフがずっとプラスのエリアにいて上へ上へとグラフが上がってきているということは、インフレが進行ペースを加速しながら進んできているということになります。インフレは加速しながら進んできていて、足元では過去5年で最も早いペースでインフレが進んでいることが分かります。

という状況で今回の利下げは行われました。3つ目のグラフはブラジルの政策金利の推移です。2010年年初時点では近年の最低金利の8.75%だった政策金利がインフレ進行を抑えるため、どんどん利上げしてきて12.5%に。それが今回12%に。



私は今回の利下げはあまりよくない一手だと思います。ブラジル政府のインフレ対応が後手にまわっているとみなされれば、レアルは売られやすくなると思います。トルコリラのように、です。トルコの先日の利下げも、市場では「予想外」でした。トルコの場合はブラジルに比べるとファンダメンタルズがよろしくないので、レアルとトルコリラを同列に語ることはできないと思いますが、インフレが進行している状況下での利下げ、という同じ行動をとったのはブラジルとトルコ、ということになります。

もし、市場がブラジル政府のインフレ対応が後手にまわっていると嫌気して、レアルが下落すると、インフレは更に進行しやすくなります(自国通貨高=インフレ抑制効果あり)。レアルが下がってインフレが更に進み、というスパイラルに入ると、その後間違いを認めて利上げをしても後手後手の印象はなかなか拭えません。ひょっとするとこのスパイラルの中でレアルの投資環境はこれまでと変わる可能性もあるかなと私は考えています。

1か月後とかに、レアルが下落しているのを「8月末の利下げにより、ブラジルレアルとの金利差が縮小し、レアルが売られた」なんて解説する記事があちこちに出るかもしれませんが、それはちょっとどうかなと。主要国の中では引き続きぶっちぎりで高金利ですし、ファンダメンタルズも悪くない、そんな国の金利が12.5%が12%になったから途端にキャリー取引をする妙味がなくなった、というのはちょっと無理があります。もしこの先レアルが下落するとすれば、それは12%という金利に投資妙味がなくなったというよりは、インフレ対応が後手にまわったことを嫌気する投資家が多かった、通貨安によって更なるインフレ進行というスパイラルを想起する投資家が多かった、という可能性のほうが高いんじゃないかと思います。


というわけで今回の利下げによって、私はレアルがここから更にぐいぐい上がっていくよりは、弱含む可能性のほうが高いと考えています。「急落」するかどうか、は逃げる資金の量次第、なので分かりません。もちろん、ブラジルレアルの市場規模は十分に小さいので、そういうことが起こってもおかしくない構造にあるとは思いますが、実際にそうなるかどうかは分かりません。小さい市場は大きく動くというが基本ですから、1兆円の売りはドルを大きく動かすことはできなくてもレアルを大きく動かすことは可能です。これがレアルや豪ドルの変動幅が米ドルと比べて大きい理由です。小さい市場はちょっとした金額のお金が入るだけで上がり、ちょっとした金額のお金が逃げるだけで下がります。各通貨の市場規模は先ほどのリンクした記事(http://jovivi.seesaa.net/article/201078447.html)の一番最後のほうに載せてあります。ご興味ある方はどうぞ。



果たして今回の利下げがレアルの転換点となるのか、注目して見ていきたいと思います。
また必要に応じてアップデートします。


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posted by ジョン太郎 at 15:36| Comment(4) | TrackBack(0) | ジョン太郎のマメ知識 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
今回の記事も参考になります。
ありがとうございます。m(_ _)m

Posted by mushoku2006 at 2011年09月03日 18:20
mushoku2006さんへ
こんにちは。
コメントありがとうございました。
いくつか過去記事にもコメントいただいてたのにお返事できてなくてすみません。
これからもよろしくお願いします。
Posted by ジョン太郎 at 2011年09月03日 23:33
いつも勉強させていただいています。

ジョンたろ兄さんに聞くのはナンセンスなのかも知れませんが、ブラジルはどうして(悪評されるような)利下げをしちゃったんでしょうかね。
Posted by うっちー at 2011年09月04日 00:16
うっちーさんへ
こんにちは。コメントありがとうございます。
利下げの建前の理由は景気の減速、インフレがコントロールできている、といったところでしょうが、実際は高金利が招く自国通貨高によって競争力をそがれていると主張するメーカーなどからのプレッシャーに負けた格好ではないでしょうか。

もしそうだとすると中銀の独立性という点でも信用を失いかねないことになりますね。

一応建前の中銀の発表文を貼っておきますね。


【金融政策委員会は政策金利を12.5%から12.0%に引き下げることを決定した。今後についてのバイアスはない。決定は5対2で、2委員が据え置きを主張した。世界情勢の再評価で先進国経済の成長見通しが総じて大幅に下方修正されるなど、見通しが著しく悪化していると判断した。今日多くの先進国経済で見られる状況が、予想より長引く公算が大きいと理解している。また、これらの国々では金融政策を活用する余地は限定的で、財政シナリオも制限されている。これらを踏まえ、世界的なシナリオは近い将来のディスインフレーションへのバイアスを示していると認識している。 

 国外の状況のブラジル経済への影響は、貿易縮小や投資フローの減速、より制限された信用状況、消費者と企業のセンチメント悪化など、さまざまな形で具体化する可能性がある。海外情勢をめぐる複雑な状況は、現在見られる国内の経済活動の鈍化プロセスをさらに急激なものにする見通しで、すでに成長見通しの下方修正となって表面化している。このため、今後インフレに対するリスクバランスはより好ましいものとなり、財政政策見通しの修正もその方向にあると考えられる。 

 これらのことから委員会は、政策金利の緩やかな調整は、より制限された世界的環境からの影響を現段階で和らげることになり、2012年のインフレ目標達成に沿った動きだと認識している。

 また委員会は、金融政策戦略の次の動きを検討する上で、マクロ経済的環境と海外の展開を注意深く監視する。】

Posted by ジョン太郎 at 2011年09月04日 13:35
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