2011年05月15日

ブラジルレアルとか豪ドルとか

今回はブラジルレアルとか豪ドルとかの話。


先日、ブラジルレアルの相場が対ドルで1.65を突破して新たなステージに入りましたというお話をしました。
http://jovivi.seesaa.net/article/194989212.html
また、迎え撃つブラジル政府としては、為替レートを一時的にソフトなレアル安方向へと導き、レアル高の進むペースを緩めるものの、レアル高トレンドを反転させて、相場を方向転換させるほどの力はない「ソフトなレアル高対策」と、急激かつ大幅なレアル安を招く可能性があり、資本逃避やインフレなど大きなリスクを伴う「ハードなレアル高対策」があり、私としては当面はソフトなレアル高対策を打ちながらずるずる行くんじゃないかなと見ているというお話をしました。

今週、ブラジル政府が新たな輸入規制をするという話が出ました。ざっくりと言いますと、輸入の手続きをめんどくさくして、さらに手続きにかかる時間を長くして、輸入に障壁を作るというものです。これは関税を引き上げて輸入に対して障壁を作るという一般的なやり方に対して関税をいじらずに障壁を作るということで「非課税障壁」(NTB、non-tariff barriers)なんて呼ばれます。

これは、かなり進んできたレアル高の影響で、ブラジル国内には安い輸入品が入ってくるようになり、国内メーカーから不満が出ていることに対応するものです。ブラジル国内のメーカーとしては、めちゃくちゃ安い輸入品が入ってくることで国内市場での価格競争力が落ちてたまったもんじゃない、かと言って、輸出して海外で稼ごうにも、レアル高によって輸出する際の価格競争力も落ちているので、これはきつい、ということになります。

もともとドル建てで売買されることの多い資源の商売などは為替レートの面ではもちろん、そもそも採れる国が少ないわけですから、政府がムキになって守ってあげる必要はないんですが、製造業はそういうわけにはいきません。

「製造業を守り育てるために」ブラジル政府はレアル高対策を打ってきます。ブラジルには資源という強い武器があり、資源みたいな強い分野で勝負して製造業なんかほっときゃいいのに、って思う方もいらっしゃるかもしれませんが、私はそうは思いません。ブラジルというのは1億9千万人という世界5位の人口を抱える国です。資源や金融というのは凄く効率のいい商売で、少ない人数でものすごくたくさんのお金を稼ぐことができます。世界の1人あたりGDPランキングを見ればその上位に、ルクセンブルグやスイスのような人口は少ないながらも金融の発達した国、ノルウェーやカタールやUAEなど人口が少ない国で豊富な資源が採れる国、などが名前を連ねています。人口100人の国に巨大な油田が見つかればその国の1人当たりGDP、1人当たりの儲け、が大変な額になることは分かると思います。

資源というのは大変効率のいいビジネスです。少ない人数でたくさんのお金を稼ぐことができます。裏を返せば人手はそんなにいらないということです。そんな人手のかからない、効率のいい資源というビジネスしか育てなかったとしたら、ブラジルという国は失業者で溢れかえり、社会は非常に不安定になります。一方、製造業というのは、小売ほどではありませんが金融や資源に比べれば人手のかかるビジネスです。人手のかかるビジネスというのは労働者をたくさん抱えて社会の失業者を減らす「労働吸収力」の高いビジネスであり、人口の多い国で失業者を少なくするためにはこうした人手のかかる製造業や小売業を育てることが大切になってきます。ブラジル政府が今後、安定した社会を保ち、安定した成長軌道を描いていきたいと考えるならば、労働吸収力の高い製造業や小売業などを伸ばしていきたいと考えるのは凄く自然なことだと思います。

で、レアル高対策の話に戻りまして。製造業を守ってあげようと思うならレアルをどんどん安くしていけばいいじゃん、それは確かにそうなんですが、レアル高にもメリットがあり、レアル安にもデメリットがあり、そう簡単なもんではありません。

レアル高のデメリットは製造業が苦しむというのが代表格ですが、一方でブラジル政府の最大の敵であるインフレの抑制効果があるという大きなメリットがあります。何せブラジルは長いことインフレにめちゃくちゃ悩まされた国ですからね。インフレに対峙する姿勢は長いこと高インフレを経験していない日本国民や日本政府なんかのそれとはわけが違います。また、ブラジルには資源が豊富にあるとはいえ、これから成長していく過程でたくさんのモノや技術やシステムを外国から買ってくる必要があります。レアル高になれば当然外国のモノや技術やシステムや会社を安く買うことができますし、ブラジル企業の海外進出のコストも安く抑えることができます。

レアル高のデメリット:製造業の売上にマイナス影響
レアル高のメリット:インフレ抑制、外国のモノや技術やシステムや会社を安く買える、企業の海外進出コスト安くなる

こういうことになります。というわけでレアル高対策をどうするかというときには、これらのメリット・デメリットを考えながら、ということになります。で、こちらのグラフをご覧ください。

usdbrl-cpi.bmp
(クリックすると別窓で大きくなって開きます)

上のオレンジのグラフは過去3年のレアルの対ドルレートの推移です。反転してないのでわかりづらいかもしれませんが、下にいくほどレアル高、上にいくほどレアル安、ということになります。下は過去3年のブラジルのインフレ率の推移です。この3年のステージの移り変わりをこの2つのグラフを見ながらご説明します。

まず、上のオレンジのグラフ一番左、グラフは下のほうに、つまりレアル高方向に向かって伸びていき、ついには1.60ラインを割り込んでレアル高が進んでいきます。史上かつてないほどのレアル高が進んだ時期です。当然、ブラジル政府のレアル高対策が注目されていました。当時の金融取引税は1.5%でブラジル政府はこれを引き上げてくるんではないかと噂されておりました。が、同時期の下のグラフのインフレ率を見ていただくとインフレ率が急激に上がっていってます。ブラジル政府としては製造業からブーブー不満を言われますし、あまりにも急激なレアル高なので対策を打ちたいところですが、何せインフレがめちゃくちゃ進んでます。インフレ対策のためもちろん利上げは行っていました。2008年年初で既に11.25%だった政策金利は7月には13%に、9月には13.75%にまで引き上げてます。既に十分に高すぎるくらいのレートであり、お金を借りている人にとってはたまったもんじゃない水準です。ところが、金利を上げれば上げるほど、高金利を狙ったキャリー取引や、高利回りの謳い文句で集められた日本からの資金がどんどんレアルを高くしていきます。結局ブラジル政府は金融取引税を引き上げないまま、9月15日を迎えます。2008年9月15日、リーマン・ブラザーズが吹っ飛びます。市場は大混乱に陥りレアルは一気に暴落します。

上のグラフのオレンジ線が一気に上にとがった山を作ってる時期、これがリーマンショックの時のレアルです。対円レートでも69円から37まで一気に落ちました。豪ドルあたりも一気に半値になってました。このステージでは、ブラジル政府はブラジル国内から一気に逃げたお金を呼び戻すため、金融取引税を1.5%から0%に引き下げます。今じゃ考えられないですけどね。通貨選択型が初めて登場したのが2009年1月。「だから、この時期に設定された通貨選択型ファンドは為替差益がめちゃくちゃ溜まっていて狙い目」とかって馬鹿げた解説をしているマネー雑誌がありましたが、そういう自分たちが勘違いしてるばかりか読者も勘違いさせるという害悪な記事は「その為替差益の恩恵を受けるのはその時に買ってた人だけで後から買った人は関係ないだろ!そんなこともわからずに解説してるのか!恥を知れ!」と突っ込みながら読み流しましょう。

さて、次のステージに。喉元過ぎて痛みを忘れた資金がまた、ブラジルに戻ってきます。2009年の1月以降、日本で次々に設定される通貨選択型ファンドやブラジル債券ファンドからの巨大な資金がブラジルレアルをどんどん下方向に持っていきます。そして2009年OCTあたり、10月ですね。ブラジル政府はレアル高対策に動きます。あまりに急激にレアル高が進みましたからね。金融取引税を0%から2%に引き上げます。ご記憶にある方も結構いらっしゃるんじゃないでしょうか。この時にブラジルに投資しているファンドの信託財産留保金を引き上げるという英断をした運用会社もありました。立派でしたね。本当に感心しました。そういうファンドがちゃんとしたファンドというものです。もちろん、信託財産留保金という制度を理解していない人や勘違いをしている人が圧倒的に多いこの国の投信市場で、あっという間に売れ行きを鈍らせていたようですが・・・嘆かわしい限りです。

この金融取引税を0%から2%に引き上げた2009年10月のあたりのインフレ率をご覧ください。低くなってますね。レアル高のインフレ抑制に期待しなくて良くなってるということです。製造業の不満を解消するためにも、あまりに急激に進んだレアル高をけん制する意味でも、バブルの発生を懸念する声に対応するためにも、ということで金融取引税を引き上げてレアル高対策を打ちました。市場は方向転換し、レアル安方向へ向かっていきます。大幅な下落とまではいかなかったことで、強いねぇ・・・という印象でした。そして、市場はまたするするとレアル高へ。

レアル高がまた一段と進んだ2010年10月、ブラジル政府は債券投資の金融取引税を2%から4%に引き上げます。下のグラフのインフレ率も一緒に上のグラフのレアル高が進んだ時期と併せてご覧ください。インフレ率は低い位置にあります。だからこそのレアル高対策です。そしてさらに続けてブラジル政府は4%に引き上げたばかりの金融取引税を6%にまで引き上げます。インフレ率低いですからね。

そしてこの春、レアルは1.65ラインを割り込みます。が、ブラジル政府は「ソフトな」レアル高対策をいくつか打ちますが、相場を反転させるほどの力はなく、レアル高は進みついには1.60ラインも突破します。新たなステージ、今いるステージは下のインフレ率を見ていただければ分かります。インフレ率がかなり上がってきています。インフレ率は6%を超え、足元では6.5%にまで上がってきています。インフレ抑制効果を考えると思いきったレアル高対策もなかなか打ちづらい状況というのがよく分かると思います。で、今回の話は・・・輸入に規制、製造業を守る対策と。今のブラジル政府の考えが見えてきましたでしょうか。

というわけで、今後のレアルの動向を考えるにはブラジルのインフレ率に注目する必要があります。チャートがどうしたとか、ゴールデンクロスがどうしたとか、といった話ばかりしていても、こうしたブラジル政府の考えを無視していては本来見なくてはならないものを見落としてしまいかねません。

足元はレアル安になってますね。豪ドルも足元では安くなってます。私はリスクマネーが今のヨーロッパ情勢を受けてリスク回避行動をとっているため、また、豪ドルやレアルの市場規模が小さいためにそうしたお金の動きに大きく振り回されてしまう性質のため、だと見ています。

以前にもお話ししたことがあると思いますが、市場規模の大きさというのはちょっとしたお金の動きによって振り回されやすいかどうかを左右する重要なファクターです。市場の大きさや、マネートレインの存在を知っていれば何年か前のベトナム株ブームや中東株ブームに踊らされることを防げたかもしれません。小さい市場はちょっとしたお金が流れ込むだけで大きく上がり、ちょっとしたお金が出ていくだけで大きく下がります。

主な通貨の市場規模を比較してみますとこんな感じになります。

CSIZe.bmp
(クリックすると別窓で大きくなって開きます)

各通貨名のとなりの数字は10億ドル単位、となりの%は為替市場におけるシェアです。1.7兆ドルの米ドルと1,500億ドルの豪ドルでは10倍以上の開きがあります。レアルに至っては米ドルの100分の1以下です。2兆円、200億ドル程度の介入をしても大して動かなかったドル円相場、数千億円程度のお金が入っただけで大きく上がり、そのお金が悪いニュースに反応して売るとそれだけで大きく下がってしまう通貨、の違いがどこにあるのか。簡単です。市場規模の大きさは懐の大きさ。これは通貨だけでなく、株でも債券でもREITでもコモディティでも同じです。

投資する時には市場規模の大きさは必ずチェックしましょう。市場規模の小さいところに投資するなら、ちょっとしたお金の動きで入ってくれば上がり、出ていけば下がってしまうのだ、ということを大前提にしたうえで検討しましょう。

以前からお話ししているように、60兆円程度しかない国内の投信残高のうちの10兆円がレアルに投資されているということは、物凄いことです。きっとこのブログの読者の方の中にもブラジルレアルや豪ドルの動向が気になってる方がいらっしゃるんじゃないかなと思いまして今日はこんな内容にさせていただきました。いつものように、あくまでも私はこう思いますよというだけの話ですので、これが正解と言うつもりも、この考えに賛同してくださいなんて言うつもりもありません。一見解としてスルーしていただいて結構でございます。
今日はこんな感じで。


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posted by ジョン太郎 at 01:26| Comment(0) | TrackBack(0) | ジョン太郎のマメ知識 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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