2009年12月20日

増資と希薄化

16日にシティグループの増資があったんですけどね、ちょっとその話を。



米金融大手のシティグループの増資が16日にありました。この半年で3度目の希薄化。

って、まず「増資」と「希薄化」について解説しといたほうがいいですね。



でも、そもそも決算書が読めないとか、バランスシートの構造がわからない、簿記はサッパリとか、って感じですとちょっときついので、もしそういう感じでしたら、そういう方でも誰でもすぐ決算書が読めるようになる、このブログの人気コーナー、「カニでもサルでもわかる簿記と決算書の読み方」略して「カニ簿記」をどうぞ!

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2006年05月29日
カニでもわかる簿記と決算書の読み方C【キャッシュフロー計算書って何さ】
http://jovivi.seesaa.net/article/18526897.html

2006年05月28日
カニでもわかる簿記と決算書の読み方B【貸借対照表って何さ】
http://jovivi.seesaa.net/article/18484924.html

2006年05月27日
カニでもわかる簿記と決算書の読み方A【損益計算書って何さ】
http://jovivi.seesaa.net/article/18426637.html

2006年05月26日
カニでもわかる簿記と決算書の読み方@【簿記って何さ/なんで決算書なんか作るのさ】
http://jovivi.seesaa.net/article/18412361.html

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で、増資。
例えばこんな会社があったとします。

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バランスシート左側の持ち物リストには現金と土地が、それぞれ50と30、単位はなんでもいいですけど、まぁ万円にしときましょうか、合計で80万円あります。バランスシート右上の借金リストを見ると、借金が40万円、で右下の資本は持ってるものを全部売って現金にして借金を全部返しても残る「差し引き正味自分のもの」であり、「株主資本」とか「自己資本」なんて呼ばれます。これが80(持ち物)-40(借金)=40万円。

よく聞く「自己資本比率」というのは、「自己資本がどのくらいあるか」、借金(=他人資本)と自己資本のどっちが多いか、を表すものですから、これを40(自己資本)÷80(負債「他人資本」・資本「自己資本」合計)という具合にすればいいだけ。当然借金の比率が高い会社は自己資本比率が低くなりますね。ちなみに「自己資本比率が低下する」なんてのは、例えば上の会社で土地が30万円だと思っていたのが実は10万円の価値しかなかった場合、持ち物リストは60万円になっちゃいますよね。土地の価格が下がっても借金の額は減りませんから、差し引き正味自分のものである自己資本は、60万の持ち物-40万円の借金で20万円と。20万円÷60万円は、先ほどの40万円÷80万円よりも小さくなっていますよね。これが自己資本比率の低下です。赤字が出た場合もバランスシート左側を削りますから、自己資本比率が低下しますし、サブプライムローン関連証券を100万円持ってたのが50万円でしか売れなくなった場合も自己資本比率が低下します。

で、もしこの会社が株式を2株発行していた場合、例えばそれをヴィヴィ子とギン子が1株ずつ持っていたとしましょう。ヴィヴィ子とギン子はこの会社の株をずいぶん昔にそれぞれ10万円で買いました。今、この会社を清算すると、土地を売って30万円の現金を手にし、持ってた現金50万と合わせて80万円。そこから40万円の借金を返して残り40万円が差し引き正味自分のもの。自分のものというのは会社のオーナーである株主のもの。これを保有株式数に応じて配分します。2株を1株ずつ持っているわけですから、ヴィヴィ子とギン子は20万円ずつもらいます。10万円で買った会社の株が20万円と。よかったね。これは実際に会社を清算しない場合、含み益、評価益、という状態になります。

で、この会社の株が上場していて、取引所で取引されているとします。この会社は昨年2万円の利益をあげました。そしてその2万円のうちの1万円を配当金で支払いました。ヴィヴィ子はこの会社の株を市場で1株20万円で売ろうとしたとします。さて、この20万円という株価は妥当でしょうか?ここまでの話をまとめてみましょう。

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こんな感じになります。1株20万円だと、PERが20倍、配当利回りで2.5%、PBRで1倍。まぁまぁってところでしょうか。問題はこの会社が来期以降ちゃんと今年以上に稼げるようになっていくかどうか、持ち物リストの中に腐ったものが入っていて、例えば土地が実は1万円の価値しかなかったとかそういうことがないかどうか、ってところですかね。

ここで、この会社が急に「増資」をすると発表しました。「増資」というのは、字の通り、資本を増やすこと。その資本というのは「他人資本」である借金を増やすことではなくて、自己資本を増やすことです。どうするか。簡単なのは株式を新たに発行します。例えばこの会社が新たに8株を発行するとします。1株10万円でも買ってくれる人がいれば10万円×8株で80万円の資金が入ります。10万円で1株引き受けてくれる人を8人探しましょう!証券会社の営業マンが「増資の話があるんですよ。今20万円くらいが妥当って言われてる会社の株が1株10万円で手に入るんですよ。おトクですよ。今まで2株しかなくて2人しか持てなかったんですが、新たに8株発行することになりまして、と言ってもたった8株なので早く申し込まないとすぐに売り切れちゃうかもしれませんけど。」なーんて言ってセールスして、あっという間に8株が売れましたと。こうなります。

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うひょー!一気に現金が増えて、自己資本比率もめちゃくちゃ高くなりました。このお金でどっかの会社を買収しちゃおうか!?どっかに新しい工場建てちゃおうか!?いっぱい仕入れちゃおうか!?

これって以前から株を持っていたヴィヴィ子とギン子にとってはどうなんでしょうか。ヴィヴィ子の持っている株は増資後も20万円で売れるでしょうか。こうなります。

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PERは100倍、配当利回り0.5%、PBRは1.67倍。これじゃ誰も買ってくれません。先ほどと同じくらいの水準のPERや配当利回りで売るためには4万円で売る必要があります。4万円で売ると
PER(4万円÷2千円)=20倍
配当利回り(1千円÷4万円)=2.5%
PBR(4万円÷12万円)=0.33倍
という風にPERと配当利回りの点で先ほどと同じ水準になります。(現金が増えた分、20万円では1.67倍になったPBRはさすがに4万円だと0.33倍まで下がります。)


なぜ、こんなことになるのか。それは株式数が増えたからです。株というのは、株主という会社のオーナーとしての立場・権利を示すものであり、株主はもっている株の全体の株数に対する比率(保有比率)に応じてその権利を持ちます。

株主の権利というのは、その会社を清算したときに「差し引き正味自分のもの」である資本金、精算金を受け取る権利であり、配当金を受け取る権利であり、オーナーとして経営に口を出したりいろんなことをする権利です。

先ほどの例で最初、ヴィヴィ子とギン子は2株しかないうちの1株をそれぞれ持っていました。つまり50%の保有比率でした。配当金の50%を受け取る権利、会社の清算金の50%を受け取る権利を持っていたということになります。それが、新たに8株が発行されて10株になることで、ヴィヴィ子とギン子の持っている1株は10分の1、10%の保有比率ということになってしまいます。配当金の50%をもらう権利を持っていたはずが10%しかもらえないことになり、精算代金の50%をもらえる権利だったはずが10%しかもらえない権利になってしまったということです。これが「希薄化」です。薄まってしまう、会社の利益が薄まってしまう、株主の権利が薄まってしまう、ことを指します。

注)投資信託の口数が増えるのとは全く別物です。投資信託の場合は口数が増減しても原則として既に保有している人の資産が希薄化したりすることはありません。



シティグループはこの半年で3回目の希薄化ということになったと言いました。実際には増資は今回だけで先の2回は優先株から普通株への転換による希薄化なんですが、そこにいっちゃうとまたややこしくなるのでここでは割愛します。今回の趣旨は増資と希薄化について皆さんにご理解いただくためのものですから。ともかく、この半年でシティの株の希薄化が進み、今回の16日の増資で半年で3回目の希薄化となりました。結果、シティ株は3月につけた1.02ドルの安値から一時は5ドル以上に回復していたにも関わらず、株価は3ドル近くにまで低下してきました。


ではなぜシティはそんな増資を決めたのか。今回のシティの増資の目的は、お金を資本市場から引っ張ってきて、今回の金融危機の中で政府の金融安定化プログラムから出してもらった救済資金を返済するためです。

政府、ひいては国民から借りたお金を、自分で調達して返そうとしているんだからいいことじゃん、と思うかもしれませんね。でも、既存の株主にとっては紛れもない希薄化です。冗談じゃないって人もいるでしょう。

しかも、シティが株主から批判を浴びながら、なぜ増資に踏み切り、そうまでして救済資金を返済しようとするのか。


その理由はボーナスです。政府から救済資金が入っている状態だと政府からやいのやいの言われて、ボーナスをたくさん払えないからです。政府から救済資金が入っている金融機関には厳しい監視がつけられ、高額のボーナスを支払うことは許されません。一時は救済資金を受けていたゴールドマン・サックスがいち早く救済資金を返済したのも、もちろん、ボーナスを支払うためです。お金は返したんだから、もうゴチャゴチャ言わないでね、口出さないでね、うちの社員にいくらボーナス払ってもあんたたちには関係ないでしょ、と言うためです。

シティもボーナスをいっぱい払うために、優秀な人材の流出を防ぐために必要なボーナスを払うために、政府からの救済資金を返したいと思っていたわけですが、返すアテがないわけで、増資、ということに。株を発行してお金集めて政府に借りたお金返して、ボーナス払うと。そういう増資です。



希薄化とかボーナスとかって話の前に、返してしまって本当に大丈夫なのかって気もしますけどね。むしろ、救済資金返済せずにとっとくくらいの備えが必要なんじゃないかなと私は思ってます。そんなに余裕ないでしょう。これで次の波が来てまたザブーンとなって無理ー、助けてー、お金ないー、誰か貸してー、って言っても見向きもされない可能性もあるわけですから。余裕あるんならいいですけど、次の波に耐えられるほどの余裕はないように見えるんですけどね。とっとけばいいのに、大丈夫かいな、というのが私の正直な感想。


ところで、日本でも鬼のような増資が続いてますね。皆さんのところにも証券会社から増資の株買いませんか?って話が来てるんじゃないでしょうか。投資するときは良く考えて決めましょうね。

今日はこんな感じで。



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posted by ジョン太郎 at 12:30| Comment(0) | TrackBack(0) | ジョン太郎のマメ知識 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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